猫が水を飲みやすい高さでシンプルでぽってりとした厚みのあるデザインの器。猫用水飲み器『IZUMI』は、徳島の伝統工芸品として名高い大谷焼の里のなかでも、最も古い約130年以上の歴史を持つ窯元と、RINNとのコラボレーションにより生まれた猫用水飲み器。
世の中には猫用の水飲み器はたくさんある。素材にこだわったもの、いつでも新鮮な水を飲むことができる機械式のもの、猫が飲みやすいとされる背の高い水飲み器も増えてきた。だが、クオリティが高く、シンプルで品が良く、部屋に置いてインテリアとマッチする水飲み器はまだまだ少ないのではないだろうか。飲みやすく、猫の健康にも、デザインも良いものをと考えたときに、生まれたのがこのIZUMIである。材料には石物といわれ強度の高いやきものになる磁器土を使用。使われるのは、大谷の赤土や阿波の青石など、地元産の良質な材料を選び抜いている。
特徴的な高台の高さは、猫が水を飲むときの無理のない姿勢を考えて獣医師監修のもと設計している。ほどよい重さと安定感は、猫がいたずらをしても倒す心配もなく安心安全。最大350mlの大容量でさらに安定感を増し、猫もたっぷりと水を飲むことができる。international cat careによる報告では、猫の食器に使われる素材は陶磁器が最も適しているという報告例がある。陶磁器は水垢もつきにくく、猫の美味しいと感じる味覚にかなっているという。
制作には設計図をもとに、優れた技術を持った瀬戸の型師が特別につくった4つのパーツに分かれた石膏の型を用いる。横から見たとき「くの字」になるデザインの水飲み器のため、型のデザインは容易ではなかったという。器の制作は、その型にエアーの圧で粘土を注入する圧力鋳込という方法で、特別にブレンドした泥状の土をゆっくりと時間をかけて流し込むところから始まる。エアーコンプレッサーを使って慎重に型から外された器は、型が泥の水分を吸い、プリミティブな表情が美しい。それをろくろの上で職人さんが、鈎のような専用の道具を使って、一点一点余分な部分を取り除いていく。仕上がった器に大谷の赤土を吹きつけた底部分には、1点ずつ手作業で「RINN」のロゴが刻まれていく。
IZUMIは、大谷の里で採れた温かみのある土にも特徴があるが、なんといっても2万種類以上のテストを重ねて開発された北欧テイストな色合いと、アメリカの古き良きミッドセンチュリーの生活用品を思わせる佇まい、上品さを醸し出すマットな質感に日本の他の産地にはない個性があるように思う。それをつくり出すのが、矢野氏が無限にある色の組み合わせのなかから、数年の歳月をかけて生み出した独自の釉薬だ。敷地内にあるラボで石灰、長石などガラス質の原料と顔料に水を加えてすり合わせ、機械できめ細かに潰してつくった釉薬を、四角いピースに塗りテストピースをつくる作業はさながら化学の実験のよう。IZUMIの特徴はいくつもあるが、北欧のテイストをもった色に、日本の風土を感じさせるようなしっとりとまったりとした質感、しかもテーブルウェアとしてテーブルに上がったときに品を感じさせる仕上がりが見事だ。器としての上品さとともに、手にしたときにしっくりとなじみ、口当たりがなめらかで優しい器。大谷の鉄分が多く金属のような光沢感のある長く使っても変わらない独特の風合い。それは人間のみならず、人間以上に繊細な感覚をもった猫もきっと気に入ってくれることだろう。
工房で働く女性たちの手により、その釉薬が器にかけられ、仕上げに器の表面がなめらかになるように、竹ヒゴを使って均質にしていく。それを最大で1240度まで熱した巨大な電気窯で、4日間かけてじっくりと焼き上げる。徳島県は古くは、水甕や睡蓮鉢など大型のやきものを得意とした産地で、徳島の特産品として名高い藍染めとともに発展してきた歴史をもつ。こんなところにも大谷焼の奥深さを感じる。余談だが、敷地内の裏山に続く斜面には、100年以上前につくられたやきものをつくる巨大な「登り窯」がある。そんな「本物」が生まれる場所でIZUMIはつくられているのだ。窯出しされた器は厳しい目でクオリティチェックがされ、RINNの製品と認められたものだけが、専用の箱に入れられて出荷されていく。
歴史ある窯元が築いてきたものづくりのストーリーと、そこでつくられる現代的な感覚をあわせ持ったIZUMI。やきものの産地である徳島県大谷の里で、幾人もの職人の手仕事を経て、丁寧につくりあげられていく猫のための器。家族の大切な一員である愛猫に日々使ってもらう器がつくられる環境としては、これ以上のものはないだろう。色は厳選されたホワイト。アートとプロダクトのあいだにあるものをつくりたい、という思いで職人が手がける器は、猫と人との暮らしに新たな関係性をもたらし、さらなる豊かさをもたらしてくれることは間違いない。