どんなものに囲まれて暮らしたいか。日常を心豊かにしてくれるのは、お気に入りのものや心地よい音楽、美味しい食べ物、明日の楽しい予定などさまざまだ。人間にとって心地の良いものが、暮らしを共にする猫たちにとっても同じように心地が良いと一層嬉しい。
私たち人間の家は、猫たちの家。猫と一緒に暮らしことがある人ならば、その感覚は分かるだろう。
外に仕事や遊びに出かける人間と違って、猫は一日中家の中で暮らしている。刻々と変わる日の光や、気温、人の話し声や、窓の外から聞こえてくる音などに少しだけ影響を受けながら、猫たちは居場所を変えている。ベッドの上、テーブルや椅子の上、玄関先や段ボールの中、冷蔵庫の上も彼らの居場所だし、カーテンの裏や窓辺、やわらかなブランケットの上やそして人間の膝の上。
人間は健やかでお腹が満たされ、お気に入りのものに囲まれていると生活の豊かさを感じる。それは猫も同じだろう。デザイン好きな僕にとってはお気に入りのデザインに囲まれた暮らしはなんとも心地が良く、心が満たされる。
猫にとって良いデザインとはなんだろうかと結論が出ない問いを僕は良く考える。カリカリを食べやすい、お水を飲みやすい器のデザインは真っ先に大事なものだろう。のぼりやすく、居心地の良い高い場所もあったら嬉しい。落ちついておしっこやウンチができるトイレの形や大きさも猫たちにとっては大事なデザインだろう。
そうして僕らが見て楽しみ、心が癒されるオブジェやアート。生活の必需品ではないけど、あったら嬉しいもの。それに類するものって猫にはあるのだろうかとも考える。
デザインとは何も形だけのものではない。「より良い状態」。それを作り出す行為がデザインなのだと思う。
そう考えればデザインとは日常に切っては切れないものだし、特別なものではなく、誰にとっても当たり前なものなのだ。
加藤孝司 / かとう たかし
ジャーナリスト。東京浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。ウェブマガジン「ensemble」の編集長もつとめる。休日は愛猫ジャスパー(ブリティッシュショートヘアの男の子)とともにすごすことを楽しみにしている。