椅子に座っていると愛猫がまっすぐな眼差しでこちらを見ている。
どうしたの?と話しかけても応えない。お腹がすいたの?トイレ?と聞いてもそうでもないらしい。
そんな時はたいがい、あなたが座っているその椅子に座らせて、というサインだ。だから椅子から立つと、いまさっきまで僕が座っていた椅子にそうそう、と言わんばかりにチョコンと飛び乗る。
そうして、椅子の上にゴロンと寝そべると満足げにグルーミングを始める。
猫とは会話はできないけれど、一緒に過ごしている時間が長くなればなるほど、猫が言いたいことや思っていることが、少しだけ分かってくる。
ご飯ちょうだい、外を見たい、どっか行くの、どこに行っていたの、もうそろそろ寝ない?
そんな具合に、いつもマイペースな猫たちだからこそ、人との関わりを自分たちならではの距離感で感じながら、日々を過ごしている。
さて、人間に好みがあるように、いくつかある椅子の中でも、猫にとっても好みやブームがあるようだ。
しかも、人間が座りやすいと感じる椅子に猫も同じように座りたがる傾向がある。これは言葉ではなく、以心伝心というものなのかもしれない。
キミの言いたいことが分からなくてゴメン、と思いながら、願わくば、座り心地の良さもそうだが、飼い主が今さっきまで座っていた人肌の温かさに、愛猫も温もりを感じてくれていたら嬉しいなあと思う。
加藤孝司 / かとう たかし
ジャーナリスト。東京浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。ウェブマガジン「ensemble」の編集長もつとめる。休日は愛猫ジャスパー(ブリティッシュショートヘアの男の子)とともにすごすことを楽しみにしている。