猫は日向ぼっこが好きです。特に寒さが厳しい冬場は太陽を追いかけて、時刻ごとに寝場所を移動する姿は実に猫らしいと感じます。これは暖かくて気持ちよいというだけでなく、被毛を健康にそして綺麗に保つために必要な行為です。日当たりの悪い部屋に長期間いると猫も毛がベトベトになってしまいます。
猫にとって望ましい窓とは大きく開いており、さらに高い位置にくつろげる場所が確保されていることが条件になるでしょう。これは出窓であれば、そこにブランケットを敷いてあげれば良いですし、普通の窓であれば、台になる棚、またはキャットタワーを設置すると良いでしょう。
一方で窓は猫が脱走する危険性がある場所でもあります。特に高層階の場合、猫が飛び降りて怪我をすることがしばしばあります。猫は”高所落下症候群 (High-rise syndrome)”という言葉ができるほど落下事故が多い動物です。ここでの高所とは7〜9m以上の高さを示し、なぜ猫が高所から降りようとするのかは、はっきりとした理由はわかっていません。猫は視力がそれほど良くないこと、自身のバランス感覚を過信しているのではないか、という可能性が指摘されています。確かに猫は空中で姿勢を保持することができますが、これほどの高さから落ちると骨折だけでなく死亡する可能性も、もちろんあります。
これらの事故を防ぐためには網戸だけでは不十分です。換気するときには猫を別室に移動させましょう。最近では脱走防止の窓用フェンスも市販されていますので、それを使うのも良いかもしれません。また窓の外のバルコニー全体を覆うネットのようなものもあります。これは確実に設置することができれば、猫にとってより開放的な環境を用意してあげることができるでしょう。
反対に猫にとって窓の外の世界が脅威になることもあります。例えば猫のスプレー行動が、窓の外から見える野良猫に対してテリトリーを主張するために行なっていることがあります。この場合、窓を棚などで隠すことで問題が解決する可能性があります。
行動学では猫の性格をアクティブとパッシブに分けて最適な環境を考えます。これは文字通り積極的に飼い主さんの後を追いかけたり、来客を怖がらない猫をアクティブ、一方あまり鳴かなかったり、他の猫に食事をゆずるようなタイプがパッシブになります。上記のような緊張しやすい猫はパッシブに分類され、この場合、窓の低い位置だけを限定的に閉じることで猫のプライバシーを保護します。
まとめ
猫は窓から入り込む日差しが好きですが、一方で脱出経路にもなるため利便性と安全性の両立が大切です。賃貸の場合、窓を交換したり、調整することは難しいと思いますが、あらかじめ光を取り入れる窓と、換気をする窓が別々に設計されていると良いでしょう。また、特に低層階では、窓の存在がプレッシャーになることもあるので、猫の性格を見極めて家具を配置して守ってあげましょう。アクティブな猫はもちろん外の世界をみせてあげて大丈夫です。そのほかには防音の方が望ましいでしょうし、最近では樹脂素材の断熱性の高い窓もあり、猫が窓際で寝るには心地よいと考えられます。
山本宗伸 / やまもと そうしん
Tokyo Cat Specialists 院長
日本大学獣医学科外科学研究室卒。東京都出身。授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫に魅了され、獣医学の道に進む。獣医学生時代から猫医学の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。国際猫医学会ISFM、日本猫医学会JSFM所属。